Richmond RestaurantとVariety Jones
ダブリンという都市は、静かにして豊かだ。
観光都市というよりは、日常が息づく街。
目まぐるしい変化を求めず、しっかりと根を張りながらも美しいものを積み重ねていくような場所。
そんな空気感の中で、ふたつのレストランに出会った。
どちらも声高に主張することなく、
ただそれでいて強烈な印象を残していく静かな美味の記憶。




Richmond Restaurant
ポートベロ。
街の中心から少し離れた住宅街に、ほのかにネオン光る温かな窓が見えてくる。
Richmond Restaurantはその場所に静かに佇み、店内に足を踏み入れた瞬間優しい笑顔で私を迎え入れてくれた。
テーブルにはアイルランドの豊かな土地が育てた野菜や肉が並ぶ。
料理は派手ではないが、ひと口ごとに滋味深く、丁寧な仕事が舌を通して伝わる。
サービスは自然体で過不足のない距離感が居心地の良さを作っている。
すべてが、あたたかかった。




自家製のサワードウマフィンとバター
香ばしくさとほろ苦さが幸せ


春の主役、ホワイトアスパラガスを贅沢に使った前菜。
やや甘みのあるソースとグリーンのハーブオイルが美しくマーブル状に広がり、アスパラの繊細な味を引き立てる
薄削りのパルメザンのトッピングされており、香りと食感のコントラストが絶妙


スライストマトとグリーンの冷菜
薄くスライスされたオレンジトマトを主役にした一品で、ドレッシングは柑橘系+オイルの軽やかな仕上げで、爽やかさと繊細なバランスが私好みだった。


白身魚とグリルした野菜をシンプルに構成した皿で、ソースは焦がしバターとグリーンオイルがベースで素材の香ばしさとスパイスのトッピングが食感と塩気にアクセントを与えていて飽きずに食べることができた。


香ばしく焼き上げたポークベリーに、焦がしピュレ、プラム、グリル野菜などを添え、ソースはバルサミコや果実の酸味を含んだ濃厚なタイプで肉の脂と相性が抜群。


洋梨のコンポートとミルクベースのプリを中心にしたデザート。
添えられたサクサクの飾りと、食後にふさわしい軽やかさが口に残らない自然な甘さ。
自然体なレストラン、Richmondの良さが最後まで感じられた。


Variety Jones
店内は小さな劇場のような空間が広がっていた。
薪火で焼かれた野菜や海の幸。
その一皿一皿には火の香りと土の温もりが封じ込められていた。
この店ではすべてがシェアスタイルで提供される。
どれが自分の料理という境界線を越えて、ひとつの食卓を共有することの豊かさを教えてくれた様な気がした。
おまかせのコースはシェフKeelan Higgsの哲学がしっかりと息づいている。
どんな料理が出てくるかというよりも、次に現れるものに自分を委ねるという感覚を楽めるレストランだった。






店内はカジュアルで温かみがありつつも澄まされた空気感。
オープンキッチンからは、食材と向き合う真剣な音が響く。


薄く揚げたパリパリのチップの上に、トラウトの軽い燻製。
フレッシュなハーブとシャキシャキのスプリングオニオンが絶妙なアクセントに。
椎茸のマリネと、花のように添えられた小さな白い花。
香り、食感、盛り付けのバランスが印象に残る。
そして、チキンの炭火焼き。


カリッと揚げられたコロッケに、ねぎの香味。
食感のコントラストが心地よく、ワインが合う。


牡蠣にはフレッシュなトマトソースとキュウリのソルベでアクセントを加えた、美しすぎる逸品。


軽く煮込まれたラグーのようなクリームを焼きたてのワッフルにつけていただく。
甘さと塩気、そして柔らかさと香ばしさがやみつきに。


まるでアイルランド版のカルボナーラ。
濃厚な卵黄ソースとチーズが幸福感を誘う。


メインは火入れの完璧なダックのロースト。
ほのかなスモーキーさと焦がしキャラメリゼのようなソースが特徴的。
添えられたグリル野菜は力強くもしなやかな存在感。


アーモンド生地に爽やかな柑橘のコンポートに
キャラメルのチュイルに濃厚なクリーム。
そして滑らかなアイスが絶妙なバランス。


ダブリンは、派手さではなくしみじみとした魅力をくれる街。
RichmondとVariety Jonesはその魅力を料理で体現している場所で、日常に疲れたときや誰かと何かを共有したい夜にこそ訪れたい、そんな場所だった。

