L’Auberge Basque
南フランスのサン=ペ=シュル=ニヴェル(Saint-Pée-sur-Nivelle)にあるL’Auberge Basqueは、レストランと宿が一体となったコンテンポラリーなオーベルジュ。
パリやビアリッツのような大都市ではない、地元の暮らしの延長にある場所に、きちんとした料理とサービスが根付いている。
この宿には、華やかな演出も、背伸びした空気もない。
だが、細部に宿る静かなこだわりが、どこかしら心を整えてくれる。






緑に囲まれた建物と、機能性を重視した設計


ホテルは一見すると伝統的なバスク様式の建物だが、中に入ると印象は大きく変わる。
無駄を削ぎ落とした室内は、温かみのある素材を使いながらも、装飾よりも空間の使い方や光の取り込み方に重点を置いている。




それぞれの部屋には、バスク地方の空気感が感じられるが、それはあくまで控えめな演出。






ラグジュアリーというより、丁寧でスマートなカントリーモダンという言葉が似合う宿。






レストランはミシュラン一つ星、だがそれ以上の説得力がある。
宿泊客の大半がここに泊まる最大の理由、それはレストランだろう。


L’Auberge Basqueのレストランはミシュラン一つ星を獲得しているが、それだけでは語りきれない芯のある魅力があった。


サービスはフォーマルすぎず、それでいて段取りや所作は徹底されていて、肩肘張らずに過ごせる。
リズムよく運ばれる料理と、静かに配慮の行き届いたサービスが相まって長い食事の時間が中だるみせずに流れていく。
テーブルに置かれるカトラリーや器も、フランス料理の重厚さよりも、食材と向き合う感覚に重点を置いたセレクトが印象的だった。


この場所の料理を支えるのは、シェフのCédric Béchade(セドリック・ベシャード)氏。
アラン・デュカスの下で長年腕を磨いた経歴を持ち、2007年にこのL’Auberge Basqueをオープン。以降、地元の職人や生産者と密な関係を築きながら、「土地に根差した現代料理」のアップデートを試みている。
シグネチャー的な小皿料理の数々。
料理は全体的に軽やかで、素材の状態、火入れ、温度、構成、リズムが緻密に計算されているのがわかる。




タルト型に仕立てた軽い前菜は、濃厚なクリームと塩気の効いた生地のバランスが絶妙だった。


ラビオリ風の一皿は、濃度を抑えたブイヨンに浮かぶように配置され滑らかな口当たりと食感のコントラストがはっきりしていた。
添えられた葉も美しさのためではなく、香りの要素としてしっかり機能していた。


花のようなビーツのお料理は、下に敷かれた黄色のソースとのコントラストが視覚的にも明快で、香ばしさと酸味の重なりが印象に残る。


今回私はベジタリアンのコースを選択した。
どの一品も遊び心がありながらも甘みとスパイスの調和がとれていて、家庭的な安心感と外食としての特別感の中間を突いてくれた。




デザートは4品用意されていたが、甘さを抑えた軽やかな仕立てで最後までテンションを保てた。


細長いチョコレート細工のデザートは、構成力の高さをそのままスイーツに落とし込んだような仕上がりで、甘さよりも構成が記憶に残る。


紫のクリームを立体的に積み上げたものは、チョコレートやベリーの苦味・酸味とのバランスに優れ、皿自体もアートピースのよう。




あえて遠回りしてでも訪れたい、まるで自然と会話するような空間だった。


Information
L’Auberge Basque
745 vieille, Rte de Saint-Jean-de-Luz, 64310 Saint-Pée-sur-Nivelle, France
+33 5 59 51 70 00
URL:https://www.aubergebasque.com